[社会] [転換力]技と質 靴下ブランド化 メーカー連携 地域発展へ

 アパレル業界に逆風が吹いたコロナ禍のなか、奈良県広陵町の老舗靴下メーカー「ヤマヤ」は、高い技術力を生かして独自ブランドを設立し、売り上げを伸ばした。直営店を開業したり、地元メーカーと協力したりして、生産日本一ながら知名度が低い「奈良の靴下」の地域ブランド化を狙う。下請け依存脱却 ヤマヤの売り上げの半分は、OEM(相手先ブランドによる生産)が占める。2020年からのコロナ禍では、百貨店の休業や外出自粛によって売り上げを落とす大手アパレルから、相次いで取引を打ち切られた。品質にこだわった靴下の生産を続ける(左から)野村泰嵩専務、佳照社長(いずれも奈良県広陵町で) 「OEMは外部企業の業績に依存している。将来的にも拡大は望めない」。専務の野村泰嵩(29)は危機感を募らせた。  販売方法を見直した。長年、手がけてきた様々な種類の靴下を全国にPRするために、ネット通販を拡大。直営店も増やし、同年10月には東京・清澄に2店舗目を構えた。 そして、下請けに依存しない安定的な経営につなげようと、新ブランド「yahae(ヤハエ)」を設立。名前は、祖業の木綿業を江戸末期に始めた「弥兵衛」にちなむ。「ものづくりは脈々と受け継がれていく。今のヤマヤの土台になった人の名前を借り、自分たちらしさを磨いていく」との思いを込めた。 新ブランドで扱う靴下の素材は、農薬を抑えたオーガニックコットンが中心だ。「ガラ紡」と呼ばれる明治時代に開発された日本独特の方法で紡ぐと、空気を多く含み、ふっくらと仕上がる。 化学染料を使わず、綿の風合いを生かした靴下は1足税込み3300円のものも。安くはないが、環境への意識が高まる時代に支持を得て、奈良市内の直営店は観光客らでにぎわう。 逆境から始まった20年度だったが、売り上げは前年度を上回り、今では自社ブランドの販路は海外約15か国に広がる。野村は「何かできることをやろうと。コロナ禍にかえって背中を押された」と言う。体験イベント開催地域のイベントに登場した創喜の「チャリックス」。ペダルをこいで、靴下作りを体験できる 産地として、メーカー同士の協力によるブランド強化も目指す。 広陵町の「創喜」は21年末、工場内に靴下作りが体験できる施設をオープンさせた。固定した自転車に編み機をつなげた装置「チャリックス」を置き、客自身が好みの色の糸を選んでペダルをこぐと、<世界

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[社会] [転換力]技と質 靴下ブランド化 メーカー連携 地域発展へ

 アパレル業界に逆風が吹いたコロナ禍のなか、奈良県広陵町の老舗靴下メーカー「ヤマヤ」は、高い技術力を生かして独自ブランドを設立し、売り上げを伸ばした。直営店を開業したり、地元メーカーと協力したりして、生産日本一ながら知名度が低い「奈良の靴下」の地域ブランド化を狙う。

下請け依存脱却

 ヤマヤの売り上げの半分は、OEM(相手先ブランドによる生産)が占める。2020年からのコロナ禍では、百貨店の休業や外出自粛によって売り上げを落とす大手アパレルから、相次いで取引を打ち切られた。

品質にこだわった靴下の生産を続ける(左から)野村泰嵩専務、佳照社長(いずれも奈良県広陵町で)
品質にこだわった靴下の生産を続ける(左から)野村泰嵩専務、佳照社長(いずれも奈良県広陵町で)

 「OEMは外部企業の業績に依存している。将来的にも拡大は望めない」。専務の野村泰嵩(29)は危機感を募らせた。

 販売方法を見直した。長年、手がけてきた様々な種類の靴下を全国にPRするために、ネット通販を拡大。直営店も増やし、同年10月には東京・清澄に2店舗目を構えた。

 そして、下請けに依存しない安定的な経営につなげようと、新ブランド「yahae(ヤハエ)」を設立。名前は、祖業の木綿業を江戸末期に始めた「弥兵衛」にちなむ。「ものづくりは脈々と受け継がれていく。今のヤマヤの土台になった人の名前を借り、自分たちらしさを磨いていく」との思いを込めた。

 新ブランドで扱う靴下の素材は、農薬を抑えたオーガニックコットンが中心だ。「ガラ紡」と呼ばれる明治時代に開発された日本独特の方法で紡ぐと、空気を多く含み、ふっくらと仕上がる。

 化学染料を使わず、綿の風合いを生かした靴下は1足税込み3300円のものも。安くはないが、環境への意識が高まる時代に支持を得て、奈良市内の直営店は観光客らでにぎわう。

 逆境から始まった20年度だったが、売り上げは前年度を上回り、今では自社ブランドの販路は海外約15か国に広がる。野村は「何かできることをやろうと。コロナ禍にかえって背中を押された」と言う。

体験イベント開催

地域のイベントに登場した創喜の「チャリックス」。ペダルをこいで、靴下作りを体験できる
地域のイベントに登場した創喜の「チャリックス」。ペダルをこいで、靴下作りを体験できる

 産地として、メーカー同士の協力によるブランド強化も目指す。

 広陵町の「創喜」は21年末、工場内に靴下作りが体験できる施設をオープンさせた。固定した自転車に編み機をつなげた装置「チャリックス」を置き、客自身が好みの色の糸を選んでペダルをこぐと、<世界に一つ>の靴下が出来上がる。

 自社ブランドの直営店も兼ね、昨年秋にはヤマヤや地元酒蔵とものづくり体験イベントも初開催した。創喜の社長、出張耕平(43)は「奈良の靴下を知ってもらうことで人を呼び込み、地域を盛り上げたい。『タオルの今治』に負けない魅力があるはず」と強調する。

 ヤマヤは自立を目指して、約30年前にいち早く自社ブランドを設立した経験がある。当時では珍しかったが、コロナ禍の近年、自社ブランドを開発し、直営店を設ける県内メーカーが相次ぐ。

 野村の父親であり、4代目社長の佳照(70)は目を細める。「願っていたことですごくうれしい。1社だけで成長しても限界がある。業界、産地として発展していきたい」(敬称略)

(奈良支局 倉岡明菜、浜井孝幸)

ヤマヤ(奈良県広陵町)

 1921年創業。従業員35人。江戸末期から営んでいた木綿業を祖業として、靴下製造をスタートさせた。戦時下の企業統合などを経験した後、83年に株式会社化。92年から現社名となり、93年には初の自社ブランドを設立した。奈良市、東京都江東区に直営店を持つ。

国内生産量6割占める

 奈良県内では、古くから綿栽培が盛んで、明治期に農家の副業として靴下作りが広まった。現在も広陵町や大和高田市など県中西部にメーカーが集積し、2022年度の国内生産量で6割を占める。

 だが、1990年頃から輸入品にシェアを徐々に奪われ、国内流通の9割が輸入品に。県靴下工業協同組合はこうした状況やメーカーの減少に危機感を持ち、2017年に地域ブランド「The Pair」を旗揚げ。摩耗強度や耐洗濯性で品質基準を設け、はき心地とデザインにこだわった商品を展開している。

 また、奈良の靴下の良さを伝える「靴下ソムリエ」の制度も創設。メーカーやアパレル関係者ら約800人が認定を受け、ブランディングに努めている。

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