［社説］処理水放出へIAEAの支援をいかせ

福島第1原発では今も汚染水を浄化した処理水がたまり続けている東京電力福島第1原子力発電所にたまり続ける処理水の海への放出について、国際原子力機関（IAEA）が調査報告書を公表した。国際的な安全基準に合致していると結論づけ、日本政府と東電の計画に対し科学的根拠に基づく「お墨付き」を与えた。IAEAは日本からの依頼をうけ、約2年にわたり欧州や韓国、中国など各国の専門家らが調査してきた。放射性物質であるトリチウムを含む処理水を海へ流す際の健康や環境への影響、新たに造った放出設備の安全性・信頼性、原子力規制委員会による検査のやり方などを検証した。処理水放出は今後30年近くに及ぶ。IAEAは福島第1原発に現地事務所を設置し、放出作業が安全に行われているかを見守っていくという。原子力の平和利用をうたって「核の番人」と称される国際機関の支援は心強い。地元の漁業関係者らは今も強く反対している。風評被害を減らす対策は今後も重要だが、それで完全になくなるわけではない。放出後に風評被害はある程度起こることを前提に、国や東電は補償の充実などの対応に注力すべきだ。ここへ来て周辺国の反発も強まってきた。韓国の世論調査では国民の8割近くが海や水産物への汚染を心配しているという。中国も放出を強行した場合の対抗措置に言及し始めた。懸念の中身は国によって異なるだろう。なかには意図的な誤情報と思われるものもある。日本政府は各国の真意を探るとともに、処理水放出が科学的根拠を踏まえた最善の策であることを説明し、粘り強く説得すべきだ。「想定外の何かが起きたらどうなるのか」といった不安は、科学的根拠だけでは解消されない。長期にわたる放出作業だけに、不測の事態の時にどう対処するのかも、明確に周辺国に示しておく必要もある。岸田文雄首相は昨年、原発回帰へとかじを切った。福島第1の廃炉を前に進めるために欠かせない処理水放出への政治決断は、その本気度が試される。政府は今年の夏までに開始すると繰り返してきた。IAEAによる安全性のお墨付きを得ることもできた。有言実行する時が迫っている。放出開始はゴールでなく廃炉を成し遂げるための始まりであることを自覚し、覚悟を持って取り組んでもらいたい。