高級車、数分で盗む新手口 「CANインベーダー」使用

高級車などの盗難で新たな手口が広がっている。車の制御システムに接続し、車外から操作する機器「CAN(キャン)インベーダー」を使用。ものの数分でエンジンを始動させ持ち去る。持ち主側の対策強化が欠かせない。警視庁は7月、2022年9月に東京都練馬区の駐車場でCANインベーダーを用いてトヨタ自動車の高級ミニバン「ヴェルファイア」1台を盗んだとして、男女3人を窃盗などの疑いで逮捕した。東京、埼玉、千葉の3都県で同年5月〜今年6月、他にも車56台が盗まれた。被害は時価約3億円に上る。手口が似通い、警視庁は窃盗グループが関与したとみる。捜査関係者によると、盗難車は茨城県にある「ヤード」と呼ばれる解体所に運ばれ、タイやアラブ首長国連邦(UAE)などに密輸されているという。警視庁が押収した「CANインベーダー」=同庁提供CANインベーダーはモバイルバッテリーのような形の手のひら大の機器だ。車のバンパーをずらし、フロント部分の配線とケーブルでつなぐと車載システム「CAN」に侵入。信号を送ってドアを解錠したり、エンジンを始動したりする。捜査関係者によると、操作は容易で車を傷付けず数分で盗んでしまう。警察庁によると、自動車盗の認知件数はピーク時の03年には約6万4200件に上ったが、22年では約5700件と大きく減っている。その中で近年、目立ったのが「リレーアタック」と呼ばれる手口だった。車に近づくと自動解錠するスマートキーが発する微弱電波を特殊な機器で増幅。離れた場所の車を勝手に解錠しエンジンをかけて盗むやり方だ。横行に対し、電波遮断などの対策が浸透した。代わってCANインベーダーによる盗難被害が相次ぐようになった。兵庫などの3県警は21年8月までに、高級車を含む約200台(計約10億円相当)を盗んだグループを摘発。CANインベーダーを使った自動車盗被害の摘発は全国初だった。大阪府警などの合同捜査本部も関東や東海、近畿などの9府県で車約60台などを盗んだとして、23年4月までに窃盗グループを摘発している。自動車盗で主に狙われるのは高級車だ。日本損害保険協会によると、22年に起きた自動車本体の盗難に対し計21の損害保険会社や共済組合が保険金を支払った事案は2656件。トヨタの「ランドクルーザー」や「レクサス」ブランドなどが上位を占めた。協会担当者は「世界的に人気の車種や、北米・欧州・中東

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高級車、数分で盗む新手口 「CANインベーダー」使用

高級車などの盗難で新たな手口が広がっている。車の制御システムに接続し、車外から操作する機器「CAN(キャン)インベーダー」を使用。ものの数分でエンジンを始動させ持ち去る。持ち主側の対策強化が欠かせない。

警視庁は7月、2022年9月に東京都練馬区の駐車場でCANインベーダーを用いてトヨタ自動車の高級ミニバン「ヴェルファイア」1台を盗んだとして、男女3人を窃盗などの疑いで逮捕した。東京、埼玉、千葉の3都県で同年5月〜今年6月、他にも車56台が盗まれた。被害は時価約3億円に上る。

手口が似通い、警視庁は窃盗グループが関与したとみる。捜査関係者によると、盗難車は茨城県にある「ヤード」と呼ばれる解体所に運ばれ、タイやアラブ首長国連邦(UAE)などに密輸されているという。

CANインベーダーはモバイルバッテリーのような形の手のひら大の機器だ。車のバンパーをずらし、フロント部分の配線とケーブルでつなぐと車載システム「CAN」に侵入。信号を送ってドアを解錠したり、エンジンを始動したりする。捜査関係者によると、操作は容易で車を傷付けず数分で盗んでしまう。

警察庁によると、自動車盗の認知件数はピーク時の03年には約6万4200件に上ったが、22年では約5700件と大きく減っている。

その中で近年、目立ったのが「リレーアタック」と呼ばれる手口だった。車に近づくと自動解錠するスマートキーが発する微弱電波を特殊な機器で増幅。離れた場所の車を勝手に解錠しエンジンをかけて盗むやり方だ。

横行に対し、電波遮断などの対策が浸透した。代わってCANインベーダーによる盗難被害が相次ぐようになった。

兵庫などの3県警は21年8月までに、高級車を含む約200台(計約10億円相当)を盗んだグループを摘発。CANインベーダーを使った自動車盗被害の摘発は全国初だった。大阪府警などの合同捜査本部も関東や東海、近畿などの9府県で車約60台などを盗んだとして、23年4月までに窃盗グループを摘発している。

自動車盗で主に狙われるのは高級車だ。日本損害保険協会によると、22年に起きた自動車本体の盗難に対し計21の損害保険会社や共済組合が保険金を支払った事案は2656件。トヨタの「ランドクルーザー」や「レクサス」ブランドなどが上位を占めた。

協会担当者は「世界的に人気の車種や、北米・欧州・中東など幅広い地域で性能を高く評価されている車種は売れやすく盗難が多いと考えられる」と分析する。

捜査関係者によると、最近の高級車盗のほとんどがCANインベーダーの手口という。窃盗グループ内で上位者が実行役に機器の使い方を教え、融通し合っているとみられる。

「機器の明確な入手経路は分かっていない」(捜査関係者)。販売しているという海外サイトは複数確認できる。運営者はロシアやブルガリアが拠点だとする。

機器について「鍵の紛失といった緊急時の解除装置」などと説明。対象の車種も記載している。価格は4千ユーロ(約62万円)ほどだ。

自動車盗に詳しい日本カーセキュリティ協会の撹上(かくあげ)智久代表理事は「機器が数十万円でも、高級車を1台盗めば元が取れる。国内での被害の多さから、かなりの数が出回っている恐れがある」と危機感を示す。

(木村梨香)

被害どう防ぐ ハンドル・タイヤをロック、対策商品も


被害を防ぐ手立てはないのか。立正大学の小宮信夫教授(犯罪学)は「何重にも防犯対策を講じ、盗むのに時間や手間がかかると思わせることが重要だ」と強調する。
有効とされる対策の一つがハンドルやタイヤをロックする装置だ。数千円から購入できる。装置を外すのに手間がかかるため、盗む側は足止めを食う。切断すれば音が漏れるなど、周囲に気付かれやすくなる。
企業側も対策に乗り出した。カー用品大手のオートバックスセブンは4月、CANインベーダーなどデジタル技術を悪用した盗難を防ぐのに役立つ商品を発売した。
車に専用の部品を取り付け、スマートフォンのアプリで操作してエンジンをかけられない設定にできる。勝手にドアが解錠された場合も利用者にメールで通知される。税込み4万9800円から取り付けられる。担当者は「窃盗犯がセキュリティーを突破しようとすれば数時間かかる」と話す。
自動車メーカーも、CANインベーダーが流す不正な信号を遮断できる後付けの部品を販売。新たな手口への対抗策が広がっている。

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