[医療・健康] 「花粉症緩和米」の開発、政府が本格化へ…原因物質組み込んだイネから医薬品

 政府は、花粉症の症状を緩和するコメ「スギ花粉米」の開発を本格化させる。遺伝子組み換え技術を使って、花粉症の原因物質の一部を含むコメを少しずつ摂取し、花粉に対する耐性の獲得を図る。医薬品としての実用化を目指し、来年度中に国内の医療機関で臨床試験を始める計画だ。 花粉症は、アレルギー疾患の一つだ。原因で最も多いスギによる花粉症を患う人の割合(有病率)は、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会の調査によると2019年は39%で、約20年前より倍以上に増えている「国民病」だ。  こうした状況から、政府は重点政策の一つと位置付ける。岸田首相も出席した5月30日の「花粉症に関する関係閣僚会議」は、スギ人工林の面積を今後10年で2割減らすことなどを柱とする花粉症対策を決定した。花粉米について、今年度は医薬品として製造し供給するまでのビジネスモデルを検討し、24年度には、医療機関や製薬企業と連携して、安全性と効果を確かめる臨床試験を進めることを明記した。 花粉米は、農林水産省所管の農業・食品産業技術総合研究機構が2000年度から開発を進めている。花粉症の原因物質の一部をつくる遺伝子を組み込んだイネを栽培する。原因物質は、収穫したコメのたんぱく質「PB1」に蓄積する。花粉が飛散する数か月前から毎日摂取すると、徐々に体が花粉に慣れ、シーズン中の症状を抑えることが期待されている。 「PB1」は、胃で消化されにくく、多くの免疫細胞が集まる腸で吸収されるという特徴がある。このため農水省は「スギ花粉に反応しにくい体質に効率的に改善できるのではないか」とする。 慈恵医大などの研究チームが16~18年、花粉米から試作したパックご飯を使って小規模な臨床試験を行った。食べた患者は、シーズン中のくしゃみが減るなど症状が緩和された。 同機構は当初、スーパーなどでも購入できる手軽な健康食品として実用化することを目指していたが、厚生労働省は07年、「治療効果を目的としており、医薬品として扱うべきだ」と判断した。その後も開発は続いていたものの、製薬企業の協力が得られず、難航していた。 今回、政府が花粉症対策をとりまとめることになり、農水省は再び本腰を入れることを決めた。パックご飯や米粉、錠剤などから適した形態を検討する。 大久保公裕・日本医大耳鼻咽喉科教授の話「実用化には、臨床試験だけでなく、コメから、厳

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[医療・健康] 「花粉症緩和米」の開発、政府が本格化へ…原因物質組み込んだイネから医薬品

 政府は、花粉症の症状を緩和するコメ「スギ花粉米」の開発を本格化させる。遺伝子組み換え技術を使って、花粉症の原因物質の一部を含むコメを少しずつ摂取し、花粉に対する耐性の獲得を図る。医薬品としての実用化を目指し、来年度中に国内の医療機関で臨床試験を始める計画だ。

 花粉症は、アレルギー疾患の一つだ。原因で最も多いスギによる花粉症を患う人の割合(有病率)は、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会の調査によると2019年は39%で、約20年前より倍以上に増えている「国民病」だ。

 こうした状況から、政府は重点政策の一つと位置付ける。岸田首相も出席した5月30日の「花粉症に関する関係閣僚会議」は、スギ人工林の面積を今後10年で2割減らすことなどを柱とする花粉症対策を決定した。花粉米について、今年度は医薬品として製造し供給するまでのビジネスモデルを検討し、24年度には、医療機関や製薬企業と連携して、安全性と効果を確かめる臨床試験を進めることを明記した。

 花粉米は、農林水産省所管の農業・食品産業技術総合研究機構が2000年度から開発を進めている。花粉症の原因物質の一部をつくる遺伝子を組み込んだイネを栽培する。原因物質は、収穫したコメのたんぱく質「PB1」に蓄積する。花粉が飛散する数か月前から毎日摂取すると、徐々に体が花粉に慣れ、シーズン中の症状を抑えることが期待されている。

 「PB1」は、胃で消化されにくく、多くの免疫細胞が集まる腸で吸収されるという特徴がある。このため農水省は「スギ花粉に反応しにくい体質に効率的に改善できるのではないか」とする。

 慈恵医大などの研究チームが16~18年、花粉米から試作したパックご飯を使って小規模な臨床試験を行った。食べた患者は、シーズン中のくしゃみが減るなど症状が緩和された。

 同機構は当初、スーパーなどでも購入できる手軽な健康食品として実用化することを目指していたが、厚生労働省は07年、「治療効果を目的としており、医薬品として扱うべきだ」と判断した。その後も開発は続いていたものの、製薬企業の協力が得られず、難航していた。

 今回、政府が花粉症対策をとりまとめることになり、農水省は再び本腰を入れることを決めた。パックご飯や米粉、錠剤などから適した形態を検討する。

 大久保公裕・日本医大耳鼻咽喉科教授の話「実用化には、臨床試験だけでなく、コメから、厳格な基準が求められる薬を安定的に製造できるのかや、アレルギー物質に体を慣らす既存の治療と比べた利点の検証も必要だ」

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