極端気象でエネ需給に懸念 猛暑や寒波が経済影響リスク

6月下旬、欧州は熱波に見舞われた。エネルギー不足への不安は大きい=ロイター今年の夏から冬にかけては、ここ数年とはかなり異なる天候になる可能性が出ている。熱帯太平洋のエルニーニョや、インド洋の正のダイポールモードと呼ばれる現象のためだ。北極海の氷の面積が低水準になっている影響も懸念される。これら「トリプル異変」によって夏は猛暑や豪雨、冬は局地的な寒波や大雪といった極端気象が多発する恐れがある。「スーパーエルニーニョ」、世界経済に打撃の恐れ気象の異変はエネルギー需要に直結する。ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、ただでさえ天然ガスの供給不足に懸念が絶えない。需給バランスが崩れれば、世界経済にも打撃となりかねない。エルニーニョは熱帯太平洋東部の広い範囲にわたり、海面水温が高くなる現象だ。大気が暖められ、地球の平均気温を全体として押し上げる効果が知られる。日米欧などの気象機関は、今春に始まったエルニーニョが冬にかけて強まるとの見方で一致している。気象庁によると6月時点では一部海域で、冬に終息したエルニーニョとは逆の現象、ラニーニャの影響が残っていた。しかし、上昇気流が発生する海域の平均的な場所からのずれや、地球を取り巻く大気の流れの変化はエルニーニョに特徴的な傾向を示し始めている。今後、よりはっきりした影響が出る予想で、専門家の間では過去最強クラスの「スーパーエルニーニョ」になるとの見方もある。インド洋ダイポールモードを予測一方、正のインド洋ダイポールモードはインド洋東部一帯の海面水温が平年より低く、西側で高めになる現象だ。6月初めにはまだ明瞭ではなかったが、各国の予測では発生の公算が大きい。気象庁は6月20日に発表した3カ月予報の解説文に、初めてインド洋ダイポールモードの影響を明記した。予報はスーパーコンピューターによる数値計算をもとに出している。これまでダイポールモードの予測は難しいとして、影響への言及には慎重だった。季節予報の計算モデルの更新により、ダイポールモードの予測・分析がしやすくなったという。この現象はもともと山形俊男・東京大学名誉教授らが見いだしたもので、気象への影響に関する研究報告は多い。教科書的には、エルニーニョが発生すると太平洋高気圧の張り出しがやや弱まり、西日本を中心に気温が低めとなって悪天が増えるとされる。正のインド洋ダイポールモードは逆に夏の主役で

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極端気象でエネ需給に懸念 猛暑や寒波が経済影響リスク
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今年の夏から冬にかけては、ここ数年とはかなり異なる天候になる可能性が出ている。熱帯太平洋のエルニーニョや、インド洋の正のダイポールモードと呼ばれる現象のためだ。北極海の氷の面積が低水準になっている影響も懸念される。これら「トリプル異変」によって夏は猛暑や豪雨、冬は局地的な寒波や大雪といった極端気象が多発する恐れがある。

「スーパーエルニーニョ」、世界経済に打撃の恐れ

気象の異変はエネルギー需要に直結する。ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、ただでさえ天然ガスの供給不足に懸念が絶えない。需給バランスが崩れれば、世界経済にも打撃となりかねない。

エルニーニョは熱帯太平洋東部の広い範囲にわたり、海面水温が高くなる現象だ。大気が暖められ、地球の平均気温を全体として押し上げる効果が知られる。

日米欧などの気象機関は、今春に始まったエルニーニョが冬にかけて強まるとの見方で一致している。気象庁によると6月時点では一部海域で、冬に終息したエルニーニョとは逆の現象、ラニーニャの影響が残っていた。

しかし、上昇気流が発生する海域の平均的な場所からのずれや、地球を取り巻く大気の流れの変化はエルニーニョに特徴的な傾向を示し始めている。

今後、よりはっきりした影響が出る予想で、専門家の間では過去最強クラスの「スーパーエルニーニョ」になるとの見方もある。

インド洋ダイポールモードを予測

一方、正のインド洋ダイポールモードはインド洋東部一帯の海面水温が平年より低く、西側で高めになる現象だ。6月初めにはまだ明瞭ではなかったが、各国の予測では発生の公算が大きい。

気象庁は6月20日に発表した3カ月予報の解説文に、初めてインド洋ダイポールモードの影響を明記した。予報はスーパーコンピューターによる数値計算をもとに出している。これまでダイポールモードの予測は難しいとして、影響への言及には慎重だった。

季節予報の計算モデルの更新により、ダイポールモードの予測・分析がしやすくなったという。この現象はもともと山形俊男・東京大学名誉教授らが見いだしたもので、気象への影響に関する研究報告は多い。

教科書的には、エルニーニョが発生すると太平洋高気圧の張り出しがやや弱まり、西日本を中心に気温が低めとなって悪天が増えるとされる。正のインド洋ダイポールモードは逆に夏の主役である太平洋高気圧を強める効果があり、大陸のチベット高気圧の勢力拡大にもつながるとされる。

つまり、両者の日本の夏への影響は反対に近いが、今年は総合すると暑い方に傾きそうだ。エルニーニョのより広い範囲の気温押し上げ効果の影響で暖気が強まり、日本にも流れ込む。そこに正のダイポールモードの影響が重なるためだ。

23年は経済影響リスクの「序章」

インド洋ダイポールモードは遠く欧州付近の大気の流れも変え、熱波を招く場合がある。その影響が1、2週間で日本付近にまで及び、高温傾向に拍車をかけるケースも知られる。

冬になるとインド洋ダイポールモードは終息に向かうが、しばらく大気への影響は残る。また、エルニーニョは最盛期を迎えるとみられる。こうした場合、日本は比較的暖冬傾向というのが定説だが、上空の偏西風が大きく蛇行すれば寒波は襲来する。南の暖気とぶつかり合って低気圧が発達し、思わぬ大雪をもたらす恐れもある。

偏西風の流れには、北極海の氷の面積が影響する。氷が減ると日射が効率的に反射されなくなり、水温が上がって気温や水蒸気量、風の流れなども変える。蛇行が強まり北極の寒気が中緯度付近の南下しやすくなるとの報告もある。欧州では北部を中心に気温が低めになる地域もある。

エルニーニョ、ダイポールモード、北極海の氷減少という3つの現象がどのタイミングでどう重なるか、不確実性も高い。しかし、極端気象で冷暖房需要が特定の時期に集中すれば、エネルギー不足の顕在化は避けられない。最悪の事態を想定して調達や備蓄に万全を期す必要がある。

異変は一度だけでは済まない。温暖化が進み、地球の気温が長期的に上昇を続けているところにエルニーニョやダイポールモードなどによる高温が重なれば、災害や経済影響のリスクは余計に大きくなる。今年はその序章ととらえるべきだ。

(編集委員 安藤淳)

[日経産業新聞2023年7月7日付]

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