[社会] 中学の部活指導、民間に委ねる「地域移行」加速…専門指導受けられるが保護者費用負担は増加

 部活動の運営を民間団体に委ねる「地域移行」が全国の中学校で加速している。教員の負担軽減のため、国は今年度から3年を「改革推進期間」と位置づけ、普及を後押しする。生徒が専門的な指導を受けられる利点もあるが、保護者の費用負担の増加や指導者不足といった課題が山積している。(飯田真優子、上田惇史)テニス部の生徒を指導する長沼さん(6月25日、東京都墨田区の都立両国高付属中で)  日曜日の6月25日、東京都墨田区の都立両国高付属中のコートで、14人のテニス部の生徒がボールを打ち合っていた。顧問の教員の姿はない。生徒に打ち方を教えていたのは、外部指導者の長沼 剛直(まさなお) さん(43)だ。  長沼さんはテニススクールなどで25年の指導歴を持つベテラン。都教育委員会が6月、地域移行のモデル事業を始め、長沼さんは日曜日に同校で指導にあたるようになった。  テニス部の顧問は四つの部活をかけもちしており、本格的な競技経験もないため、生徒は十分な指導を受けられなかった。2年の秋葉 陽向(ひなた) さん(13)は「長沼さんに技術的な改善点を指摘してもらえるので、上達できそう」と期待を寄せた。  顧問を9年間務める同校の鈴木悟教諭(49)はこれまで、週末も部活動のために出勤。大会が行われる月はほとんど休めないこともあった。鈴木教諭は「地域移行が進めば連休をとることが可能になり、精神的にも負担が減る」と歓迎する。 国が地域移行を進める方針を表明したのは2020年。文部科学省の16年度の調査で、「過労死ライン」(月80時間)を超える残業をした中学校教員は約6割に上り、教員の志望者数は低迷していた。 その要因の一つが部活動だった。必ずしも教員が指導する必要はないが、顧問は休日返上で指導にあたるケースが多く、過重労働の温床になっていた。競技経験がないのに顧問を任されて悩む人も多かった。 少子化による部の廃止も目立ち、部活動の維持と教員の働き方改革の両立を目指し、民間への移行を進めることになった。まずは土日や祝日の公立中の部活動について、スポーツクラブなどに運営を任せていく。 国は今年度、自治体が指導員に支払う報酬などを支援するため、28億円の予算を確保。スポーツ庁によると、全都道府県の339市区町村が運動部のモデル事業に参加している。25年度までが推進期間で担当者は「徐々に拡大していきた

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[社会] 中学の部活指導、民間に委ねる「地域移行」加速…専門指導受けられるが保護者費用負担は増加

 部活動の運営を民間団体に委ねる「地域移行」が全国の中学校で加速している。教員の負担軽減のため、国は今年度から3年を「改革推進期間」と位置づけ、普及を後押しする。生徒が専門的な指導を受けられる利点もあるが、保護者の費用負担の増加や指導者不足といった課題が山積している。(飯田真優子、上田惇史)

テニス部の生徒を指導する長沼さん(6月25日、東京都墨田区の都立両国高付属中で)
テニス部の生徒を指導する長沼さん(6月25日、東京都墨田区の都立両国高付属中で)

 日曜日の6月25日、東京都墨田区の都立両国高付属中のコートで、14人のテニス部の生徒がボールを打ち合っていた。顧問の教員の姿はない。生徒に打ち方を教えていたのは、外部指導者の長沼 剛直まさなお さん(43)だ。

 長沼さんはテニススクールなどで25年の指導歴を持つベテラン。都教育委員会が6月、地域移行のモデル事業を始め、長沼さんは日曜日に同校で指導にあたるようになった。

 テニス部の顧問は四つの部活をかけもちしており、本格的な競技経験もないため、生徒は十分な指導を受けられなかった。2年の秋葉 陽向ひなた さん(13)は「長沼さんに技術的な改善点を指摘してもらえるので、上達できそう」と期待を寄せた。

 顧問を9年間務める同校の鈴木悟教諭(49)はこれまで、週末も部活動のために出勤。大会が行われる月はほとんど休めないこともあった。鈴木教諭は「地域移行が進めば連休をとることが可能になり、精神的にも負担が減る」と歓迎する。

 国が地域移行を進める方針を表明したのは2020年。文部科学省の16年度の調査で、「過労死ライン」(月80時間)を超える残業をした中学校教員は約6割に上り、教員の志望者数は低迷していた。

 その要因の一つが部活動だった。必ずしも教員が指導する必要はないが、顧問は休日返上で指導にあたるケースが多く、過重労働の温床になっていた。競技経験がないのに顧問を任されて悩む人も多かった。

 少子化による部の廃止も目立ち、部活動の維持と教員の働き方改革の両立を目指し、民間への移行を進めることになった。まずは土日や祝日の公立中の部活動について、スポーツクラブなどに運営を任せていく。

 国は今年度、自治体が指導員に支払う報酬などを支援するため、28億円の予算を確保。スポーツ庁によると、全都道府県の339市区町村が運動部のモデル事業に参加している。25年度までが推進期間で担当者は「徐々に拡大していきたい」と話すが、課題は多い。

 全国的に共通するのが保護者の費用負担の増加だ。バレーボール部などの地域移行を進めている富山県黒部市では、週1回の指導への報酬などとして、1人当たり年間約7000円が必要になった。市教育委員会の調査では、費用について「負担に感じる」と回答した保護者は4割に上る。

 今は一部を国の補助や市の負担でまかなっているが、補助がなくなったり、平日の地域移行が進んで指導回数が増えたりすれば、値上げを検討せざるを得ない。

 地方では、外部指導者が確保できない事態に直面している。島根県でモデル事業に参加しているのは益田市のみで、移行したくても指導者を見つけられない自治体は多い。県教委は「教員の負担を減らしたいが、特に中山間地域や離島ではすぐに外部人材は見つからない。課題解決のハードルは高い」と漏らす。

 日本大の末冨芳教授(教育行政学)は「質の高い教員確保のためには、負担の大きい部活動の改革は必須だ。習い事と同じで相応の負担が必要なのは当然で、保護者は意識を変えていく必要がある。自治体や競技団体は地方に眠った指導者の人材の掘り起こしに努めるべきだ」と話している。

企業と連携、プロ派遣の自治体も

 企業や若い力を借りながら、地域移行に取り組んでいる自治体もある。

 沖縄県うるま市は、民間企業「スポーツデータバンク」(東京)と連携。自治体に寄付した企業の税負担を軽減する「企業版ふるさと納税」の活用などで運営費を捻出し、プロサッカーチームなどから指導者を派遣してもらっている。

 休日を中心に9校で導入し、生徒からは好評だ。同社は全国の約50自治体と連携しており、石塚大輔・代表取締役(41)は「円滑な移行には資金や人材、施設管理といったハードルを丁寧に解消することが欠かせない」と強調する。

 岡山市では7月から、大学生に部活指導を担ってもらう取り組みを始めた。現役選手や経験者ら約90人が、野球や吹奏楽などの指導役になっている。学生は事前に事故防止などの研修を受け、顧問と一緒に指導を行っているという。

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