[社説]デジタル課税発効へ米も日欧も力尽くせ

経済協力開発機構(OECD)が交渉事務局を務めたデジタル課税の条約案には138カ国・地域が合意した(1月、都内で日本経済新聞の取材に応じたマティアス・コーマンOECD事務総長)時代遅れとなった国際課税の改革を着実になし遂げたい。日米欧やインド、中国など138の国・地域は、世界的に展開するIT(情報技術)企業などからサービスを利用する国・地域も課税できるようにする「デジタル課税」で多国間条約の大枠に合意した。経済協力開発機構(OECD)が成果文書を示した。グーグルやメタ(旧フェイスブック)など米巨大IT企業をはじめ、日本を含む世界100社程度が対象になる。2023年末までに多くの国の支持を得て署名式を開き、25年中に発効させることを目指す。デジタル課税は巨大ITの払う税金が本拠地の米国に集中する実態を改める。恒久的な施設がない所では課税できない原則を1世紀ぶりに転換し、サービスを利用・消費する国・地域で課税を可能にする。企業活動の実態に国際的な税収の配分を合わせていく。21年10月に基本合意した内容を具体的な条約の骨格として詰めた。売上高が200億ユーロ(約3.1兆円)を超し利益率が10%を超す企業を想定し、10%を超える利益(超過利益)の25%分を、課税の権利としてサービスの利用者がいる国・地域に配分する。デジタル課税の導入により数兆円単位の税収が新興国や途上国を含めたサービスの消費国に移る見通しで、より公平なすがたになる。だが最大の難問は、税収の減る米国が、国内の支持を得て条約への署名や批准を期限内に済ませられるかどうかにある。トランプ前政権はOECD主導のデジタル課税の骨抜きに動いた。共和党内では課税自主権が奪われるなどと反対が根強い。与党・民主党のバイデン政権が流れを戻したが、条約の批准は米議会上院で3分の2の賛成が要る。民主党の賛成だけでは実現しない。欧州などの各国は20年前後に米ITを念頭に独自のデジタル課税導入を表明して米国と対立し、多国間のデジタル課税の実現を条件に実施を凍結した。米国が条約の署名や批准に失敗すれば各国でバラバラな課税が乱立しかねず、税制や企業活動の混乱も甚大だ。25年は米大統領選挙の後となり不透明感は濃い。それでもバイデン政権は国内合意の形成に全力を挙げ、共和党の大局的な譲歩を引き出す必要がある。日本や欧州も歴史的な国際課税の改革が漂

A person who loves writing, loves novels, and loves life.Seeking objective truth, hoping for world peace, and wishing for a world without wars.
[社説]デジタル課税発効へ米も日欧も力尽くせ

時代遅れとなった国際課税の改革を着実になし遂げたい。日米欧やインド、中国など138の国・地域は、世界的に展開するIT(情報技術)企業などからサービスを利用する国・地域も課税できるようにする「デジタル課税」で多国間条約の大枠に合意した。

経済協力開発機構(OECD)が成果文書を示した。グーグルやメタ(旧フェイスブック)など米巨大IT企業をはじめ、日本を含む世界100社程度が対象になる。2023年末までに多くの国の支持を得て署名式を開き、25年中に発効させることを目指す。

デジタル課税は巨大ITの払う税金が本拠地の米国に集中する実態を改める。恒久的な施設がない所では課税できない原則を1世紀ぶりに転換し、サービスを利用・消費する国・地域で課税を可能にする。企業活動の実態に国際的な税収の配分を合わせていく。

21年10月に基本合意した内容を具体的な条約の骨格として詰めた。売上高が200億ユーロ(約3.1兆円)を超し利益率が10%を超す企業を想定し、10%を超える利益(超過利益)の25%分を、課税の権利としてサービスの利用者がいる国・地域に配分する。

デジタル課税の導入により数兆円単位の税収が新興国や途上国を含めたサービスの消費国に移る見通しで、より公平なすがたになる。だが最大の難問は、税収の減る米国が、国内の支持を得て条約への署名や批准を期限内に済ませられるかどうかにある。

トランプ前政権はOECD主導のデジタル課税の骨抜きに動いた。共和党内では課税自主権が奪われるなどと反対が根強い。与党・民主党のバイデン政権が流れを戻したが、条約の批准は米議会上院で3分の2の賛成が要る。民主党の賛成だけでは実現しない。

欧州などの各国は20年前後に米ITを念頭に独自のデジタル課税導入を表明して米国と対立し、多国間のデジタル課税の実現を条件に実施を凍結した。米国が条約の署名や批准に失敗すれば各国でバラバラな課税が乱立しかねず、税制や企業活動の混乱も甚大だ。

25年は米大統領選挙の後となり不透明感は濃い。それでもバイデン政権は国内合意の形成に全力を挙げ、共和党の大局的な譲歩を引き出す必要がある。日本や欧州も歴史的な国際課税の改革が漂流する事態を防ぐため、米国に協調を粘り強く呼び掛けるべきだ。

What's Your Reaction?

like

dislike

love

funny

angry

sad

wow