［社説］仏暴動に映る移民統合の苦悩

暴徒化したデモ隊によって横転させられた車両（2日、パリ）=ロイター警官による北アフリカ系の少年射殺事件をきっかけに、フランス各地で暴動が広がった。発展に取り残された都市郊外の住民らが抱える不満があらわになった。マクロン大統領は事態の鎮静化を急ぐとともに、移民を社会に統合していく努力を続けてほしい。警官の行動についてマクロン氏は「弁明の余地はない」と述べた。国連人権高等弁務官事務所は「法務執行機関における根深い人種偏見や差別について真剣に向き合う時だ」と指摘した。物価高で貧困層の生活は厳しさを増す。だが抗議は放火や略奪など暴力的な破壊行動に転じた。当初の平和的なデモから逸脱した行動はとうてい正当化できない。警戒すべきは事件を政治利用しようとする勢力の動きだ。発砲した警官の家族を支援するため、反移民の極右主義者が呼びかけたクラウドファンディングには多額の資金が集まったという。中道のマクロン氏が率いる与党連合は議会で急進左派と極右勢力に挟まれ、過半数の議席を握れていない。フランスは移民の数が人口の1割以上を占める。サッカーのワールドカップ（W杯）でアフリカ系の選手が活躍するなど多様性は社会の活力につながっている。伝統エリート学校の廃止を決めたマクロン氏が目指すのは、格差を固定化しない社会と経済の構造改革である。移民の社会統合という課題に苦しむのはフランスだけではない。スウェーデンでは反イスラムのデモで聖典コーランが燃やされる事件が続けて起きた。偏狭なナショナリズムや大衆迎合のポピュリズムが台頭するなか、社会の分断が各地で深刻になっている。少数派への挑発や攻撃は、過激派にテロの口実として利用される恐れもある。各国に必要なのは社会の寛容さや公平性を築くための工夫と努力だ。人口減の日本は特に外国人が安心して暮らせる環境づくりが急務だ。異質の排除につながるような誤った教訓を引き出すべきでない。