［社説］性的少数者の就労環境整えよ

判決後、記者会見する経産省職員ら（11日、東京・霞が関の司法記者クラブ）=共同性同一性障害の経済産業省職員が女性用トイレの使用を制限されたことをめぐり、最高裁第3小法廷は国の対応は違法との判断を示した。性的少数者の職場環境について、最高裁が判断を示したのは初めてだ。多様性を尊重する職場づくりへ一歩前に進むきっかけにしたい。この職員は、健康上の理由で性別適合手術は受けていないものの長年、女性ホルモン投与を受け、2010年から女性の服装で働いている。女性用トイレの使用も求めたが、経産省は執務室から2階以上離れたところに利用を制限。人事院も15年、職員の求めを退ける判定をした。最高裁判決によると、同じ階のトイレ利用に明確に異を唱える同僚はおらず、15年までの間に離れた階のトイレでもトラブルは生じていなかった。経産省の対応を是認した人事院の判定を「具体的な事情を踏まえることなく同僚への配慮を過度に重視し、職員の不利益を不当に軽視した」と断じた最高裁の判断は納得できる。今回、裁判官5人全員が補足意見を付けた。性自認に基づいて社会生活を送る利益の重要性を、複数の意見が強調した。もちろん他の職員の利益も大事であり、これらの調整は欠かせない。今崎幸彦裁判長は一連の問題の教訓として、施設管理者や人事担当者が「トランスジェンダーの人々の置かれた立場に十分に配慮し、真摯に調整を尽くすべき責務があることが浮き彫りになった」と述べた。それぞれの事案ごとに、最適な解決策を探る努力が求められる。理解増進のための教育や研修をしていくことも大事だろう。この判決は職場のトイレについての事案だ。不特定多数が利用する公共施設のトイレなどを想定した判断ではない。今崎裁判長は「機会を改めて議論されるべきだ」とした。6月には性的少数者への理解増進法が施行された。だれもが暮らしやすく、働きやすい社会へ、さらに議論を深めたい。