[社説]認知症薬いかし治療を前に

レカネマブは米国で正式承認された認知症は早期に対応すれば治療が可能な時代に入った。世界で推計5000万人の患者がいる「現代の病」だけに、日本の製薬会社エーザイが米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」への期待と影響力は計り知れない。米食品医薬品局(FDA)が6日、レカネマブを正式承認した。「メディケア」と呼ぶ高齢者向けの公的医療保険の対象となり、米国での治療が今後、拡大していくだろう。これで国内でも9月をメドに厚生労働省が医薬品として承認する公算が大きくなった。国が薬価を算定した後、年内には医療現場で使えるようになる見通しだ。レカネマブは対症療法ではなく、脳内の原因物質とされるアミロイドベータを除去する世界初の治療薬だ。発症すると医療の選択肢が極めて限られていたアルツハイマー病の患者や家族にとって希望の光に違いない。ただ、治療対象となるのは早期段階かその前の軽度認知障害(MCI)の患者だけだ。しかも症状の進行を遅らせることはできても「治る」わけではない。この点をきちんと理解しておくことがとても大切といえる。米国ではレカネマブの値段は年間2万6500ドル(約380万円)になった。日本の薬価はこれより低くなるとみられるが、適用人数が増えると医療財政の問題に発展するかもしれない。医療として定着させるにはほかにも課題がある。治療の対象かどうかの見極めに脳内のアミロイドベータの蓄積を調べるが、検査できる施設は限られる。専門医の数も少ない。治療を受けたくても受けられない患者が出ないよう、医療機関の連携など体制整備が急務といえる。この20年余り、アルツハイマー病治療薬の開発に欧米の巨大製薬企業が挑んだが、失敗してきた。エーザイの快挙をいかし、日本が率先して認知症の克服モデル構築に取り組んでもらいたい。

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[社説]認知症薬いかし治療を前に

認知症は早期に対応すれば治療が可能な時代に入った。世界で推計5000万人の患者がいる「現代の病」だけに、日本の製薬会社エーザイが米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」への期待と影響力は計り知れない。

米食品医薬品局(FDA)が6日、レカネマブを正式承認した。「メディケア」と呼ぶ高齢者向けの公的医療保険の対象となり、米国での治療が今後、拡大していくだろう。

これで国内でも9月をメドに厚生労働省が医薬品として承認する公算が大きくなった。国が薬価を算定した後、年内には医療現場で使えるようになる見通しだ。

レカネマブは対症療法ではなく、脳内の原因物質とされるアミロイドベータを除去する世界初の治療薬だ。発症すると医療の選択肢が極めて限られていたアルツハイマー病の患者や家族にとって希望の光に違いない。

ただ、治療対象となるのは早期段階かその前の軽度認知障害(MCI)の患者だけだ。しかも症状の進行を遅らせることはできても「治る」わけではない。この点をきちんと理解しておくことがとても大切といえる。

米国ではレカネマブの値段は年間2万6500ドル(約380万円)になった。日本の薬価はこれより低くなるとみられるが、適用人数が増えると医療財政の問題に発展するかもしれない。

医療として定着させるにはほかにも課題がある。治療の対象かどうかの見極めに脳内のアミロイドベータの蓄積を調べるが、検査できる施設は限られる。専門医の数も少ない。治療を受けたくても受けられない患者が出ないよう、医療機関の連携など体制整備が急務といえる。

この20年余り、アルツハイマー病治療薬の開発に欧米の巨大製薬企業が挑んだが、失敗してきた。エーザイの快挙をいかし、日本が率先して認知症の克服モデル構築に取り組んでもらいたい。

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