[著者来店] [著者来店]「カミカゼの幽霊」神立尚紀さん…「人間爆弾」発案 汚名一身に

 「桜花」という美しい名を持つ特攻兵器の別名は「人間爆弾」だった。大型爆弾を内蔵した、全長6メートル、幅5メートルほどの1人乗り小型機で、敵艦に近づくと母機から切り離され、体当たりした。埼玉県の航空自衛隊入間基地内の資料館には、桜花の実物が展示されている。それを見ると、かつて取材した「桜花搭乗員の言葉が脳裏に浮かぶ」と話す。「俺のガンバコ( 棺桶(かんおけ) )はこんなもんか」 [著者来店]「母は死ねない」河合香織さん…母親像に正解はない  本書は、この桜花を発案した海軍の特務少尉、大田正一を描いたノンフィクションだ。太平洋戦争末期の1944年7月、劣勢を打開しようと大田は海軍上層部に、桜花の構想を提案。海軍の動きは早く、9月上旬には量産体制に入り、翌年3月には初出撃したが、犠牲に比する戦果を上げたとは言いがたかった。 終戦直後の8月18日、大田は戦闘機を自分で操縦し、茨城県の基地を飛び立ったまま行方不明となり、殉職した。そう伝えられていた。しかし、大田は生きていた。名前を変え、大阪で所帯を持った。本名こそ家族には明かしたが、年齢や出身地も偽っていた。  物語は、父の実像を求める息子の葛藤を柱に、桜花誕生の経緯、桜花搭乗員の証言が折り重なる。大田は戦後、桜花発案の汚名を背負い、 逼塞(ひっそく) した。一方、特攻を推進、命じた指揮官たちの多くは〈戦後自決することも身を隠すこともなく〉生きた。「責任を大田にかぶせて、のうのうと生きた。それは今も変わらない責任転嫁の体質だ」と憤る。  500人を超える旧軍人や遺族と会い、資料を収集してきた。死線を越えてきた人たちからの膨大な聞き取りの蓄積があるからこそ、ある桜花搭乗員が大田の息子に語りかけた言葉の重みを理解する。〈お父さんのことを誇りに思ってほしい(略)生きるってことはすばらしいことだ〉(小学館、1980円)前田啓介

A person who loves writing, loves novels, and loves life.Seeking objective truth, hoping for world peace, and wishing for a world without wars.
[著者来店] [著者来店]「カミカゼの幽霊」神立尚紀さん…「人間爆弾」発案 汚名一身に

 「桜花」という美しい名を持つ特攻兵器の別名は「人間爆弾」だった。大型爆弾を内蔵した、全長6メートル、幅5メートルほどの1人乗り小型機で、敵艦に近づくと母機から切り離され、体当たりした。埼玉県の航空自衛隊入間基地内の資料館には、桜花の実物が展示されている。それを見ると、かつて取材した「桜花搭乗員の言葉が脳裏に浮かぶ」と話す。「俺のガンバコ( 棺桶かんおけ )はこんなもんか」

[著者来店]「母は死ねない」河合香織さん…母親像に正解はない

 本書は、この桜花を発案した海軍の特務少尉、大田正一を描いたノンフィクションだ。太平洋戦争末期の1944年7月、劣勢を打開しようと大田は海軍上層部に、桜花の構想を提案。海軍の動きは早く、9月上旬には量産体制に入り、翌年3月には初出撃したが、犠牲に比する戦果を上げたとは言いがたかった。

 終戦直後の8月18日、大田は戦闘機を自分で操縦し、茨城県の基地を飛び立ったまま行方不明となり、殉職した。そう伝えられていた。しかし、大田は生きていた。名前を変え、大阪で所帯を持った。本名こそ家族には明かしたが、年齢や出身地も偽っていた。

 物語は、父の実像を求める息子の葛藤を柱に、桜花誕生の経緯、桜花搭乗員の証言が折り重なる。大田は戦後、桜花発案の汚名を背負い、 逼塞ひっそく した。一方、特攻を推進、命じた指揮官たちの多くは〈戦後自決することも身を隠すこともなく〉生きた。「責任を大田にかぶせて、のうのうと生きた。それは今も変わらない責任転嫁の体質だ」と憤る。

 500人を超える旧軍人や遺族と会い、資料を収集してきた。死線を越えてきた人たちからの膨大な聞き取りの蓄積があるからこそ、ある桜花搭乗員が大田の息子に語りかけた言葉の重みを理解する。〈お父さんのことを誇りに思ってほしい(略)生きるってことはすばらしいことだ〉(小学館、1980円)前田啓介

What's Your Reaction?

like

dislike

love

funny

angry

sad

wow